今回の怪獣は、2008年度のNHKの人気テレビ番組「テレ遊びパフォー!」において企画された「怪獣をデザイン」というコーナーに投稿したものです。マスターのみうらじゅん氏にも気に入って頂き、「テレ遊びパフォー!サマーフェスティバル2008」では、会場となったSHIBUYA-AXにも展示されました。みうら氏からは「各パーツの皮膚感の違いが無気味さをかもし出している。食虫植物であろうか? いや人をも食らう植物怪獣(しかも雌雄)であろう」というコメントを頂きました。

今回は、この怪獣を主人公にした物語を、秋田書店の「新・世界の怪獣」風の短編小説にまとめてみました。

怪獣デザイン

伝説の怪獣

「は、博士、これを見てください!」

往年の俳優・黒部進にも似たハンサムな熊川青年が叫び声を上げた。

「おお、これこそ私が探し求めていた伝説の怪獣の足跡だ!」

駆けよった白髪混じりの生物学者、高岡博士も驚きの声を上げた。二人の眼前には、幅5mはあろうかという4本指の巨大な足跡が大地に刻まれていた。

ここは南大平洋、フランス領ポリネシアの小島。一帯が密林に覆われ、周囲の人々からは「悪魔の島」と恐れられる無人島だ。言い伝えによると、この島にはフローレフローラという夫婦怪獣が棲息しているといわれ、今でも伝説を信じる近隣の島の人々は、供え物のバナナやサトウキビを欠かさないという。

「足跡から判断して、太古の恐竜の生き残りに違いない」

高岡博士は目を輝かせたが、その横で、現地ガイドは顔をこわばらせていた。

フローレとの遭遇

その日の夜中、海岸沿いにテントを張った高岡博士の一行を異変が襲った。用を足そうと野外へ出ていった熊川青年を、闇の中から巨大な光る目が見つめていたのだ。驚いて腰を抜かす熊川。悲鳴を聞いて駆けつけた現地ガイドが叫んだ。

「何か食べる物を、早く!」

高岡博士が恐る恐るチョコレートを差し出すと、その怪物は大きな顔を近づけて、旨そうに食べたではないか。そして次々に博士の手から食べ物をもらうと、あっという間に平らげていった。このままでは大事な食糧が底をつくと思われたが、現地ガイドが供え物のある祭壇へと怪物を誘導した。

明るくなるにつれ、怪物の姿がはっきり見えるようになった。それは、顔の周りがピンクの花びらで覆われた、身長40メートルほどもある怪獣だった。胴体は草のような毛が密集し、腹部はパイナップルのようなウロコで覆われ、背中には果実のような背びれが生え、全身から甘い香りを放っている。

まるで植物の集合体のようなその姿に一行は目を奪われた。

ガイドによると怪獣はメスのフローレだ。意外にもフローレは危害さえ加えなければ大人しく、博士たちにもよくなつき愛嬌をふりまいた。

「こんな可愛い怪獣を悪魔だなんて」

熊川青年が笑顔でフローレを見上げた。フローレは供え物だけでは物足りないのか、或いは一行の持ち込んだ食べ物が気に入ったのか、それから毎日現れては、博士たちの手から食べ物をもらうようになった。本来の食べ物である魚介類に加え、ピザやスパゲッティなどのイタリアンや、トマトやキュウリやアボカドなどの野菜も大いに気に入ったようだ。

博士はフローレを映像に記録し、体細胞やふんを採取した。そして数週間後、一行は仲良くなったフローレに別れを告げ、島を後にした。博士は、名残惜しそうに海岸にたたずむフローレを見てこう呟いた。

「こんな怪獣が平和に暮らせる楽園がこの地上にあるなんて。熊川君、フローレをそっとしておいてあげようじゃないか」

博士は当面の間、研究成果の公表を控える決心をしたのだった。

怪獣フィーバー

しかし帰国した博士らを待ち受けていたものは、マスコミの取材の嵐だった。すでに現地ガイドが撮影していたフローレの映像が、ネット上で世界中に流れていたのだ。博士の心配は現実のものとなった。世界各国から研究者や観光客が大挙してあの島へ押し寄せていった。フローレが危険のない生き物だと分かった今、周辺の島々も怪獣ブームに湧いていた。フローレをかたどった民芸品やTシャツを売る者など、ブームに便乗する者たちで溢れかえった。

撮影機材を持って島に上陸した者たちは、好物のピザやトマト、チョコレート、魚介類を山盛りにして、フローレをおびきよせる作戦に出た。はたして夜になり、密林をかき分けフローレが現れた。と同時に一斉にライトが照らされ、閃光の嵐がフローレを襲った。

ピヒャーッ! ピヒャーッ!

驚いたフローレが、まるで何かに助けを求めるようなかん高い鳴き声を上げた。右往左往するフローレを、どこまでもライトが追う。と、その時だ。

ガルルルル…ガッ…ゴルルルル…

一段と低い咆哮が響き渡ると、なんと地中から土砂を吹き上げ、2頭目の怪獣が現れたではないか! フローレに似てはいるが、頭部の花びらは緑色で鋭く尖っている。鼻先からは大きな一本角が生え、凶暴な面構えだ。

「あれは夫のフローラだ! フローラが目を覚ましたぞーっ!」

フローラは妻のフローレが攻撃されていると思い、愛する妻を守るために現れたのだ。フローラは口から大量の花粉を吐き出した。その花粉は遠い昔、この怪獣の祖先が植物だったころの名残りであり、生殖能力はないが、強力なアレルギー物質を含む最大の武器なのだ。花粉を浴びた人々は、涙と鼻水が止まらなくなり大混乱に陥った。フローラは逃げ惑う人々を踏みつぶし、雄叫びを上げた。

軍隊の出動

「こんな危険な生物を生かしておくわけにはいかない」

人類は、原因を作ったのは自分たちであるにもかかわらず、怪獣に総攻撃をかける決断を下した。高岡博士は反対の声を上げたが、誰も耳を貸す者はいなかった。

そしていよいよ総攻撃の日がやってきた。島に集結する最新鋭のF-22戦闘機部隊。夜明けとともに攻撃が開始された。

グァーン!

ドドドドーン!

ごう音を上げて島に命中するミサイルの雨あられ。フローラが目を覚まし、木々の間から一瞬頭をもたげたが、島全体を覆う煙と炎に隠されて、すぐにその姿は見えなくなった。悲し気な叫び声が一帯にこだまし、やがて何も聞こえなくなった。はたして怪獣は死んだのだろうか…

フローラの逆襲

数か月がたち、世界中の人々は怪獣のことなどすっかり忘れていた。いや、憶えている者がいても、怪獣は死んだものと信じこんでいた。

そんなある日、マリアナ諸島南端の島・グアム島に激震が走った。島の北岸にある米軍のアンダーセン空軍基地に、突如フローラが現れたのだ。迎え撃つ暇もなく、次々に破壊される戦闘機と爆撃機。かろうじて飛び立った数機のF-22戦闘機も、フローラの花粉のために視界を奪われ、為す術なく叩き落とされた。故郷の島を焼かれ、妻とはぐれたフローラが、人類に復讐を開始したのだろうか。炎上する建物と逃げ惑う人々…

フローラの怒りを鎮めるには、一刻も早くフローレを探し出して2頭を引き合わせる以外に方法はない。だが、はたしてフローレは生きているのだろうか。

故郷の島を焼き尽くした憎むべき人類の兵器を一掃すると、フローラは、気がすんだかのように暴れるのをやめた。そして海へもどると、まっすぐ北の方角を目指して泳ぎ始めた。その先にあるのは、東京だ!

夫婦の再会

東京一帯は大混乱に陥った。沿岸地域には避難勧告が発令され、害獣駆除の名目で自衛隊が派遣された。東京から脱出する者もあれば、怪獣見たさに集まってくる者もいる。そんな中、高岡博士はある作戦を政府に提案した。その作戦とは、フローレの香りでフローラを、日本から遠く離れた無人島へ誘導しようというものだ。実は博士は、フローレの体から採取した細胞からフローレの持つ甘い香りを合成することに成功していたのだ。政府も博士の提案を受け入れ、香りの物質を大量に積んだ航空自衛隊の大型輸送ヘリ・CH-47が用意された。

そしてついにフローラが、小笠原諸島の無人島の一つ、嫁島の近海に到達した!

ヘリが発進し、作戦を開始した。

ガルルルル…ガッ…ゴルルルル…

一瞬フローラは動きを止め、ヘリを見上げたが、またすぐに元の進路へと泳ぎ出した。作戦は失敗だ。合成した偽物の香りには騙されないのだ。しかし東京上陸だけは阻止しなければならない。海上自衛隊の大型護衛艦による一斉攻撃が開始された。

ダダダダダダダダダダダダダダッ!

ドドーン!

ごう音を上げて水柱が上がり、フローラの体が炎に包まれた。陸上では無敵のフローラも水の中では分が悪い。次第に弱ってゆくフローラ。と、その時だ。嫁島から何か大きなものが泳ぎ出してきた。それは、なんとフローレではないか!

フローレは生きていたのだ。フローレはぐったりしているフローラをしり目に、こぶしを振り上げ次から次へと護衛艦を叩き壊し、自らの体重を乗せひっくり返していった。いざとなるとフローレは夫以上に強くなるのだ。

ピヒャーッ! ピヒャーッ!

フローレは勝利の雄叫びを上げるとフローラを助け起こし、嫁島へと引き上げた。実はフローラは東京を目指していたのではなく、フローレのいるこの島を目指していたのだ。フローレは先にこの島にたどり着き、ここが気に入って甘い香りでフローラを導いていたのだ。

ガルルルル…ガッ…! ゴルルルル…ガッ…! ゴルルルル…!

ピヒャッ! ピヒャッ! ピヒャッ!

夫婦の再会をはたし、喜びあう2頭。

そんな彼らを見て、高岡博士の目には涙が浮かんだ。

「そうだ、人間も怪獣も同じなんだ」

その後も、その新しい楽園で2頭が仲良く手をつなぎ、歩いている姿が見られた。勿論、妻のフローレが夫のフローラを従えているのは言うまでもない。怪獣夫婦はここで、そっと静かに、平和に暮らしていくことだろう。

やがて日本中の人々が嫁島のことを「フローレ島」と呼ぶようになった。

登場怪獣
フローレ(妻)

バラのような甘い香りを放ち、夫がどこにいようとも、夫を自分のもとへと引き寄せる。魚介類を始め、ピザやパスタなどのイタリアンや、トマト、チョコレートが好物。いつも愛嬌のある表情と、ピヒャーッ、フゥー…という可愛い声で夫に甘えながらも、夫を従え行動する。お尻が大きく、お尻の力で戦車やヘリコプターをもペシャンコにすることができる。いざという時や怒った時には恐さを増し、夫以上の怪力を発揮する。賢いボス的存在。(うちの妻をモデルにした怪獣です)

フローラ(夫)

フローレの夫で、フローレを守る大怪獣。フローレを熱愛し、フローレの姿が見えなくなると大暴れする。植物と動物の中間生物で、怒ると口から大量の花粉を吐き出す。その花粉は遠い昔、この怪獣の祖先が植物だったころの名残りであり、生殖能力はないが、スギ花粉の数十倍という強力なアレルギー物質を含む恐ろしい武器だ。また、肉類やDHAを多く含む魚介類を非常によく食べることから、知能も発達している。

筆者より一言

1月1日は筆者が妻に、知り合ってわずか1か月でプロポーズした記念日です。そこで、愛する妻をテーマにした怪獣の小説を書いてみたいと思い立ち、筆者の代表作である「夫婦怪獣フローレ・フローラ」を小説化してみました。今年で結婚10周年を迎える妻に、この作品を贈りたいと思います。

(公開日:2009/01/01)