時は天平。一人の天才仏師が、奈良の都で殉職を遂げた衛士の遺体を骨組みに、大きな仏像を造り上げた。全身が粘土で出来たその像は、薬師十二神将の秘められた十三番目の将「ゴーラ大将」と名付けられ、人々から手厚く信仰された。しかし後に戦乱の嵐に巻き込まれ、それは何処ともなく姿を消したという。

時は流れて現代。奈良県の山間部、とある工事現場からそれは発掘された。
像高200cmの巨大な仏像に調査のメスが入る。しかし透視撮影のガンマ線を浴びて、それは目覚めた。
仏像に封じ込められた衛士の遺体は、粘土中に含まれる未知のバチルス菌の作用によって、仮死状態のままで現在まで眠り続けてきたのだ。全身を覆う粘度は生体と融合し、強固な鎧となって銃弾をも弾き返す。右手に握る金色(こんじき)のヴァジュラは鋼鉄よりも頑丈だ。
都の変化に戸惑い、自分の家や家族を探して現代の町をさまよう悲運の戦士だ。

今回は一目でわかる通り、仏像を題材にした「怪人」ですが、実は私は大学時代、仏教美術を専攻していました。卒論のタイトルは「日本古代の四天王像における甲冑の諸相」。有名な東大寺戒壇院の四天王像を中心に、新薬師寺の十二神将像、興福寺の天竜八部衆像など、仏の世界において「天部」(註1)を構成する武神像たちが身に付けている甲冑の構造やバリエーション、装着の仕方などを研究していたのです。平たく言えば、奈良時代の正義の味方のコスチュームの研究です。こんなテーマを卒論で取り上げた理由は、当然いつの日か「変身忍者嵐」や「怪傑ライオン丸」のような、日本的な特撮ヒーローを作ってみたいという思いがあったからなのです。

既にマンガの世界では「孔雀王」(荻野真 / 週刊ヤングジャンプ)、「ゴッドサイダー」(巻来功士 / 週刊少年ジャンプ)、「GANTS」(奥浩哉 / 週刊ヤングジャンプ)など、仏像的なヒーローや怪物が登場する物語がいくつもありますが、特撮物ではほとんどなく、「シルバー仮面」にローム星人という東大寺戒壇院の持国天像にやや似ている宇宙人が登場するくらいでしょうか。

私は仏像の魅力とは、見る者を圧倒する禍々しさであり、時の流れを感じさせる古臭さであると思いますので、ゴーラ大将は、「天部」の仏像が放つ異様な迫力と、元々は豪華絢爛に彩色されていたものが、時の流れによって塗装がはげ落ちた様を表現することを第一に考えました。難しいところは、それら「天部」が身に付けている甲冑は、元々は唐や新羅などで使用されていた甲冑がモデルとなっているので、あまり実際のものに忠実に再現し過ぎると、神というより2007年の韓国ドラマ「太王四神記」にでも登場しそうな一介の兵卒っぽくなってしまうことです(註2)。

全体の雰囲気は新薬師寺の伐折羅大将像(500円切手にもなっているやつ)をイメージしていますが、実際は、髪型は毘羯羅(びから)大将像(新薬師寺)、胸から腰にかけての甲は執金剛神像(東大寺法華堂)、頸当てと脛当ては四天王像(東大寺戒壇院)、裳(膝からはみ出した着物)と石帯(ベルト)は伐折羅大将像といった具合に、各仏像の一番シンプルで特徴的な部分を取り入れてデザインしています。

ちなみにゴーラ大将を漢字で書くと「護宇羅大将」で、文字通り「宇(空間=世界)を護る」戦士という意味です。同じく人間の手によって造られた泥人形である「巨人ゴーレム」(1920)にも引っ掛けています。(余談ですが、「巨人ゴーレム」のラストシーンで、ゴーレムに無邪気に食べ物のようなものを差し出す少女が出てきますが、この少女と我が家の怪獣アドバイザーである妻は、見た目もやりそうなことも似ていて面白いなと思いました)

怪獣デザイン

参考記事

(註1)「天部」というのは、仏教成立以前からインドにあったヒンドゥー教の神々を、自らの中に取り入れて、これに仏教守護の役割を課したものであり、主に武神が多い。これら天部の尊像は、仏教を脅かす外敵と戦うために、そのほとんどが甲冑に身を固めている。

(註2)雅楽の代表的な演目である「太平楽」においても、舞を演じる4人の武人が身に付けている甲冑がこのタイプのものであるが、甲冑としてはリアルでも、仏像とは全く似ていない。

(公開日:2010/05/30)