イモ虫怪獣バビヨン

西暦20XX年。ここはインド洋、オーストラリア南西部の「世界で一番美しい都市」と呼ばれる大都市パースの800キロの沖合だ。熱帯低気圧や雷とは無縁な穏やかなこの海域に、10年の歳月と1兆2千億円の建設費を投じて人類史上最も壮大な建造物「宇宙エレベーター」が造られた。
海上に浮かぶアースポートから、宇宙へと伸びる全長10万キロのケーブルを伝って、科学者や観光客を乗せたクルーザーが緩やかに上昇して行く。ロケットのわずか2%の料金で、誰もが宇宙を訪れることが可能になったのだ。

厳重に敷かれた防御態勢。しかし、安全上の脅威はスペースデブリや放射線、テロリストだけではなかった。何とイモ虫怪獣バビヨンがアースポートを襲ったのだ。
有史以前に卵の状態で地球に漂着したバビヨンは、成長すると単為生殖を始め、彼らの世界を築き上げる宇宙の昆虫怪獣だ。
インド洋の孤島に姿を隠していたが、宇宙空間で産卵し卵を地球全域にばら撒くためにケーブルを上り始めたのだ。

送電がストップし、宇宙空間で立ち往生するクルーザーに取り残された乗員たちの運命は!
そしてまた、鋼鉄の180倍の強度を持つカーボンナノチューブで作られたケーブルは、怪獣の重みに耐えられるのか!

怪獣デザイン

宇宙エレベーターとは

宇宙エレベーター(軌道エレベーター)とは一言で言えば、静止軌道(地球の中心から42,164km)に設けられた宇宙ステーションと地球を結ぶケーブルを、ケーブルカーのような乗り物で昇り降りするもので、現在アメリカの研究機関を中心に開発が進められているものだ。
前述の通り、1兆円程度で建造が可能。なので国家は勿論、三井物産や三菱商事のような世界的企業やビル・ゲイツのような大富豪など、民間企業や個人でさえも建造できると言われている。
1kgあたり約2万円(ロケットのわずか2%の費用!)で人や物資を宇宙空間に運び上げることが可能となるため、今まで遅々として進まなかった宇宙開発が、飛躍的に進歩すると予想されている。

ただし全長10万キロにも及ぶケーブルには、鋼鉄のおよそ180倍という途方もない強度が求められるため、そんな素材の存在しなかった20世紀には、宇宙エレベーターなど夢物語と思われていた。しかし現在では、理論上は鋼鉄の400倍の強度を持つといわれる新素材・カーボンナノチューブの発見により、SFの世界が現実味を帯びてきたのだ。

さて、そんな宇宙エレベーター。
マンガやアニメ、SF小説ではとうにお馴染みですが、怪獣映画にはまだ一度も登場したことがありません。最新の科学考証に基づくリアルな宇宙エレベーター(のケーブル)を昇っていく怪獣というのは当怪獣デザイン館のバビヨンが史上初、今までどこにもいなかったのです。

東京タワーに福岡ドーム、横浜みなとみらいなど、怪獣は話題のランドマークが完成すると、必ず壊しにやってきます。近い将来、宇宙エレベーターの建造が実際に始まれば、宇宙エレベーターを昇っていく怪獣の物語も絶対に映画化されるに違いないと、私は思っています。

バビヨン」という名前は映画「パピヨン」から取ったもので、名画に詳しい怪獣伯爵夫人(妻)が名付けました。

参考文献

宇宙旅行はエレベーターで」ブラッドリー・C・エドワーズ、フィリップ・レーガン / ランダムハウス講談社 / 2008年

他にも本書によれば、もしも宇宙エレベーターが完成したら、宇宙空間での宇宙太陽光発電衛星の展開が可能になる。夜も雲もない宇宙空間で、一辺が数キロにも及ぶ太陽電池パネルを広げる発電衛星から、私たちは24時間、クリーンで無限のエネルギーを手に入れることができるようになるのだ。未だにこれが実現されない唯一の理由は、前述の通り、ロケットでシステム全体を宇宙空間に運び上げると天文学的な費用がかかってしまうからなのだ。

(公開日:2010/07/27 最終更新日:2024/07/26)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA