怪獣デザイン

「怪獣だ! 怪獣が出たぞーっ!」
ここは、東北地方の温泉街にある特別養護老人ホーム。
深夜であるにもかかわらず、近所中に響き渡る怒鳴り声を上げる男がいた。
その男とは通称「怪獣じいさん」。ことあるごとに怪獣が出たと騒ぎ立てては、周囲の人間を困らせてばかりいる80才の老人だ。元は温厚な中学教師だったが、30年前に赴任先の学校で怪獣の襲撃に遭い、教え子を失って以来、様子が一変したのだ。今や家族からも見放され、施設で孤独な生活を送っていた。

その日の夜も老人は、施設を抜け出そうとして、当直の若い介護士を困らせていた。
(老人)「怪獣だ、今日こそ怪獣が出るぞ、ここから出してくれぇぇ!」
(介護士)「はいはい、怪獣が出るんですね?」
(老人)「この教室の下に怪獣がいるんだ、オレには聞こえるんだ!」
(介護士)「あなた耳が遠いのにどうして聞こえるんですか(怒) それにここは学校じゃ‥」
(老人)「お前もしつこいなぁ、出ると言ったら出るんだよぉ!」

その時だ! 大きな地震とともに地割れが起こり、地割れの中から本当に怪獣が現れたのだ。
それは、まるで人間の老人のような白髪とあごひげを生やした不気味な怪獣だ!
老人の言う通り、怪獣は本当に存在したのだ。あるいは、虐げられた老人の怨念が、怪獣となって現れたのだろうか。

カッカッカッカッカッ! カッカッカッカッカッ!
怪獣は、時代劇に出てくるご老公のような笑い声を上げながら、辺り一帯を破壊し始めた!

口から不思議なガスを吐いて暴れる怪獣を、施設の窓から食い入るように見つめる老人の脳裏に、30年前の光景がよみがえってきた。
「あの時、オレは生徒を置いて逃げ出した。今度こそは、今度こそは、みんなの命を守らんと!」
老人の眼に再び光が灯り、顔つきが変わった! 老人は、逃げ遅れた人々を助けるために、部屋から飛び出していった!

お年寄りが、わけのわからないことを言っているからといって、頭ごなしに否定しないでください。そこにはきっと何か、真実が隠されているかもしれないのです。

翁(おきな)怪獣ガシラとは

翁(おきな)怪獣ガシラは、孤独な「怪獣じいさん」の心に感応して現れた怪獣だ。
そしてこの怪獣もまた、500万年生き続けている怪獣のおじいさんなのだ。
口から不思議なガスを吐く。このガスを認知症の老人が吸い込むと、脳の機能が正常化し、その後一生にわたり病気の発症が抑えられるという不思議な効果がある。
人間の老人とそうでない者とを見分ける高い知能を持ち、老人には決して手を出さない。
老人をいたわる心を持ち、老人に冷たくする者を懲らしめるために現れた心の優しい怪獣だ。

怪獣デザイン

今回は「敬老の日」にちなんで考えた怪獣です

この物語に出てくるような認知症の老人の相手をしていると、どこからそんな考えが浮かんできたの?と言いたくなるような妄言に延々とつき合わされたり、こちらは病院に連れて行ってあげたり食事やトイレの世話をしたりと、誠心誠意尽くしているにもかかわらず、あろうことか泥棒呼ばわりされたりと、非常に腹の立つことが多々あります。
まるでこちらの良心を試されるようなことばかり。「認知症になったら何を言っても何をやっても許されるのか!」と叫びたくなります。

しかしながら、肉体的な暴力は勿論、言葉による暴力も、決して許されることではありません。
腹の立つ時には、私は目の前にいる老人の若い頃の姿を想像してみます。若く美しく、はつらつと行動し働いていた頃の姿を。誰だって自分が年を取って認知症になるとなんか思っていなかったはずなのです。
どんな時でも、お年寄りには余裕を持って優しくありたいと、私は思っています。
翁怪獣ガシラは、そんな願いのこもった怪獣なのです。

(公開日:2012/08/31)