天空怪獣ワルツ

怪獣デザイン 怪獣伯爵夫人

「あっ、怪獣ワルツだーっ」
よく晴れた東京の午後。抜けるような青空に、お椀を横に倒したような、奇妙な丸い怪獣が現れた!
よく見ると怪獣の中には人が乗っている。それは「天空怪獣ワルツ」とその女主人。空に浮かぶ彼らの姿は、ここ東京の郊外では、日常的なごくありふれた光景となっていた。
怪獣ワルツは喧噪でごったがえす地上を尻目に、空中にぷかぷかと優雅に浮かびながら、ゆっくりと進んでいた。そして閑静な住宅街の大きなマンションの上で停止すると、ゆっくりと舞い降りた。
怪獣から下りてきたのは美しい女。彼女は怪獣を従えて、日本全国を文字通り飛び回り、演奏活動を繰り広げる女流音楽家だ。

怪獣デザイン 怪獣伯爵夫人

女と怪獣との出会いは3年前。当時はまだ無名だった彼女が、草むらに埋もれていた虹色の卵を拾ったことから始まった。
卵から孵った生物に、女は「ワルツ」と名前を付け、大切に育てた。
生物は空中を浮遊する能力を持ち、小さいうちは女の荷物をくわえて彼女の後を付き従うだけだったが、やがて次第に大きな「怪獣」となり、女を乗せて彼女の演奏先へと移動するようになった。
元々素晴らしい才能を持っていた彼女は、怪獣の存在と相まって、いつしか著名なアーティストの仲間入りをした。そしてワルツも「乗ってみたい怪獣ナンバーワン」として、子供から大人まで愛され、飛んでいるワルツを見ると願い事が叶うと噂された。
科学者たちは、ワルツの飛行原理に関心を示した。ワルツの体内にはモノポール(磁気単極子)が存在し、地球の磁場に乗って、空を飛んでいることが判明した(註1)。
普段のワルツの生息域は、旅客機さえも飛ばない高度20キロの成層圏だ。大気中のメタンガスを食べ、女のテレパシーを感じ取ると地上に降りてくる、とても大人しい怪獣なのだ。

そんなある日、東京湾上空を航行中の500人乗りの旅客機が、隕石と衝突するという前代未聞のニュースが飛び込んできた。主翼に亀裂が走り、急激に高度を落とす機体。女はワルツを呼んだ。

「ワルツ行くよ! みんなの命を救えるのはワルツしかいない!」

怪獣デザイン

参考文献

(註1)「モノポール(磁気単極子)」とはN極またはS極のどちらか一つしかない磁石のことだ。これを地球の磁場の中に置けば、方位磁針のように南北に引かれることなく、UFOのように空中に浮き上がるのだ。問題は、モノポールが未だに発見されていないことだが、ビッグバンの瞬間には宇宙にふんだんにあったと考えられている。
(「サイエンス・インポッシブル SF世界は実現可能か」ミチオ・カク / NHK出版 / 2008年)

(公開日:2012/06/30)

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